北宋画を思わせる漆黒の描写は まさしく水墨の山水画だ。洋画家の描くモノトーン 白と黒の世界。その風景を描いて代表する画家 小松 明さんが、ついに墨そのもので筆を走らせた。「墨も素人、書はもっと素人。書も絵のひとつぐらいにしてみてもらええ」と言いつつもその仕上がりは見事なもの。お気に入りの良寛の賛が入った物、また我が越し方を見つめ自ら詠んだ賛。それぞれが絵との凛とした空間を見事に創り上げている。小松 明さんは大正13年生まれ、今年で76才になるベテラン洋画家だ。高知県は南国土佐の出身、一見厳しい冬景色とはイメージが重なりにくいが、画家としての生き方は「いごっそう」そのもので、柔和な表現の下に息づく反骨魂は、その絵に力強く発揮されている。本領は魂のこもった筆使いだ。ブラマンクや佐伯祐三に通ずる、うねるような生命の筆致が人々の心を打つ。以前、同郷の作家 宮尾登美子さんが個展によせてこんな小文を寄せてくれたことがあった。「南国土佐の男が苛烈な雪景色に挑むには それなりの理由があるはずで、答えは近年の小松さんの作品の前に立てば雄弁にそれを物語ってくれるのである。たぶんこのひとは ぬるま湯の虚偽を嫌い爛熟と堕落を憎み、熱(いき)り立つ憤りを そのまま雪と格闘しているにちがいなく、その果敢さは 見る側に感動として伝わってくる。」和歌山では初公開 小松 明さんの水墨展、ぜひ御高覧下さいますよう、併せて得意の油彩近作もご覧いただけます。御来廊のほど、お待ち申し上げております。<文中、月刊美術より抄出>
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